子育てしながら働く-ワーキングマザーのリアル

  • インタビュー

Documentary Working at RAZONA
営業 / 釘宮 葵

長年バリキャリの営業として忙しく働いてきた釘宮 葵さんが、妊娠したことを知ったのは2014年の冬のことだった。子供ができても仕事はつづけたいと上司に常々話をし理解を得ていたので、妊娠を報告することにためらいはなかった。当時営業の社員は釘宮さん一人で後任が心配されたが、タイミングよく新任スタッフが採用され問題は消えた。こうして社内初の育児休業・産前産後休業を取得する女性社員となった。そして長い休業を経て職場復帰してからは、おのずと働く姿勢が変化していった。

育児休業 復帰後初の大仕事と子育て

8カ月の休業を経て、釘宮さんが職場に復帰したのは2015年の5月だった。仕事を休むことにも復帰することにも不安はなかったというが、現実には休業期間はブランクとしてのしかかってきた。

「休んでいる間クライアントとの接触がなくなっていたので、前のように連絡しても返事がなかったり、営業は苦戦しました。状況としては停滞しているけれど働く時間も限られているので、それを打開できずに毎日が過ぎていく感じでした」

手応えを感じられない日々がつづくなかで、それまでと同じやり方では難しいと感じ、新たな取り組みをはじめたり、過去の人脈を頼って人と会うことを重ねた。するとある日、過去の取引先からの紹介で地域活性化サイトの制作受注をめぐるコンペの話が持ち上がった。

「正直にいうと、それまで大きなコンペに自分が主体となって参加したことはなくて、不安でした。でも、上司が強く背中を押してくれたんです。私はプライベートでも地域の活動に参加しているので、“この件は釘宮が適任でしょ”と。それで挑戦してみようと思えました」

競合は6社。このコンペに勝って、それまでの停滞を取りもどそうと懸命になった。それよりもなによりも没頭できたのはこの仕事自体が楽しかったからだ。

「時間がなかったので、企画立案と提案書の作成に、ワイヤーフレームを書いてデザインの指示をだすなど、自分でやらせてもらいました。決めることが多いのですが、なにが正解かわからないので決断できずに悩むこともありました。でも、どうしたらその地域が魅力的に映るのかを考えるのは楽しかったです。正解はどうであれ、このことをいちばん考えている人になりたい、という思いでいました」

釘宮さんが働けるのは定時の17時まで。その後、子どもを保育園に迎えにいかなければならない。ときには夫や母親に頼むこともあったが、時間はやはり足りなかった。

「コンペまでは家に仕事を持ち込まざるをえませんでした。家に帰って、ごはんを食べさせ、お風呂に入って、寝かしつけて、家のことをするともう22時、23時です。そこから企画を練ったり、資料を作ったり、プレゼンの練習をしたりすると夜中になることもありました。子どもとの時間から仕事モードへのスイッチの切り替えがむずかしかったですね」

自分が頑張ったと思えることで褒められるのがいちばん成長できる

この案件をはじめる前に、釘宮さんはラソナ代表の岡村氏からこういわれていた。「自分が頑張ったと思えることで褒められるのがいちばん成長できる」と。また、上司からはプレゼンのアイディアや企画面のサポートがあった。そんな激励や支えにどうしても報いたかった。

 

コンペの結果は外にいるとき、電話で聞いた。

「やったーーーーーーー!!!」

釘宮さんは都心のビルの非常階段からさけんだ。

子育てと仕事の両立をするために決めた6つのこと

会社の規定する定時は10時から19時のところ、現在釘宮さんは9時から17時までの時短勤務だ。金曜日は地域活動を支援するNPOで働いている。

「17時までって、本当に短いんです。夕方からの打ち合わせに参加できなかったり、自分だけでは対応できず、誰かに託して帰らなければならないこともあります。時間さえあればできるのに“できない”といわなければならない。自分のスキルが落ちたような気がして、不甲斐なさや物足りなさを感じるときもあります」

バリバリ働いてきた釘宮さんにとっては、時間を切られることが消化不良になることも多い。子供ができる前は時間にとらわれることなく仕事に励んできた。

「昔は残業しないで早く帰りたいと思っていたんですけどね。今は好きな時に好きなだけ仕事ができるって幸せなことなんだなあと思います。でも、不満をいっていても現状は変わらないので、こういう制約があるなかでどうしたら楽しく効率的に仕事ができるか考えるようになりました」

そんな葛藤のなか、次第に釘宮さんは次の6つを実践するようになっていった。

  1. 朝からフルスピードで働く。
  2. 大事なことから手をつける。
  3. 決断を早くする。
  4. 100を目指さない。70〜80でもどんどん進める。
  5. 前と同じようにやれる・やろうと思わないで、いまの自分の環境でできることをちゃんとやる。
  6. 家のことは考えない仕事モードと仕事のことは考えない母モードのスイッチを入れ替える。

時間を短縮し生産性を上げるための6か条。ワーキングマザーに限らず、タイムマネジメントが不得手なビジネスパーソンも、これを意識して仕事に取り組めば、残業時間は減るかもしれない。

三位一体の子育てサポート

会社ではじめて産休を取得することになった釘宮さんは、休業に入る頃から復帰時期を設定し、保育園の情報を収集したり、実際見学にいってみたりその準備をはじめた。また、哺乳瓶でミルクを飲む練習をしたり、離乳食をすすめたり、復帰のためには子どもにも準備をしてもらう必要があった。

「保育園の入園結果がでてから、どういう形で復帰するか会社と話し合いました。もともと私は変則的な時間の働き方をしていたのですが、復帰後も同じように働きたかったんです。しかし会社には会社の要望があって数回話し合うことになりました。最終的にはお互いが歩み寄れるところで復帰することができました」

復帰を約束されてはいても、長いときが経てば会社の事情は微妙に変わるもの。しかし、復帰したい思いを応援してくれることに変わりはなかった。

「復帰後の働き方にしても、個人の事情に合わせて柔軟に対応してくれる環境がラソナという会社にはあると思います。実際、時間や場所による制約を受けずにフレックスタイムや在宅で対応させてもらったことがあり、それは本当に助かりました。本人のスキルやモチベーションは変わらなくても、どうしても時間的な制限でやり切れない場合がある。その人の職種や子どものタイプ、家族の理解などによって事情はさまざまです。その時に、“じゃあ、どうしたらいいか”を一緒に考えてくれるんですね。私のほかにもう一人ワーキングママがいますが、職種や家族の状況も違うので、私とは違う時間帯で違う働き方を認められています」

釘宮さんの実家は自分の住まいの近くにある。子どもが熱を出したり緊急の場合は、たいがい実母が迎えにいってくれている。夫のサポートもしっかりある。

「一人暮らしの経験が長いし、理解がある人だと思っているので、できることはどんどんやってもらいます(笑)。最初は家事の分担でケンカが多かったのですが、何度もくり返すうちに、無駄なことでイライラしなくなりました。いいバランスが見つかってきたように感じます」

子育てを応援してくれる会社、仕事との両立に理解を示してくれる夫、娘を陰で支える母。まさに人によって事情は違うだろうが、ワーキングマザーをサポートする体制としては恵まれているほうだろう。

現在釘宮さんは第二子を懐妊中。出産してもまた仕事はつづける。

 

編集部追記

現在、釘宮さんは第二子を出産し、二度目の育児休業を終えて職場復帰しています。


 

インタビューに答えてくれた人

釘宮 葵 / くぎみや あおい

1982年、埼玉県生まれ。大学卒業後、インターネット広告代理店勤務。退職後は、ネパール、タンザニアで海外ボランティア活動をする。2009年ラソナに営業職として入社。2014年社内初の育児休業・産前産後休業を取得し、翌年職場復帰。2018年第二子を出産し二度目の育児休業を終えて職場復帰。趣味は野外フェス、キャンプ、畑仕事というアウトドア派。

インタビュー / テキスト

和田 知巳 / わだ ともみ

ビジネスエグゼクティブ向け会員誌の編集長を経て、フリーランスに。現在はWebメディアを中心に、ビジネス、IT、ファッション・ライフスタイルなど幅広い分野で企画・執筆・編集を手がける。またライティング活動のかたわら、非常勤講師として外国人留学生に日本語を教えている。

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