「本当にそれ必要ですか?」プロデューサーの価値はどこにあるかーラソナ流プロモーション企画術

  • インタビュー

Documentary Working at RAZONA
Webプロデューサー / 飯島大介

Web制作会社のラソナに入社して12年目という飯島大介さんは多くのコーポレートサイト、キャンペーンサイト、サービスサイトなどのプロデュースに携わってきました。これまで担当したクライアントは、消費財、飲料、乳業、医薬品、自動車など業界の一部上場企業が中心。そんな経験豊富な飯島さんにWebプロデュース術をお聞きしました。お話をうかがっていると、プロデューサーという仕事の本質、そこに飯島流というものも浮かび上がってきました。

Webだけにとどまらない、デジタルや広告の面白さ

—まずはじめに、Webプロデューサーとはどういうお仕事ですか?

そうですね、アカウントの視点からいうと、お客さまのさまざまな課題に対して解決策を提示して、最終的にはお客さまのビジネスを成功に導くのがプロデューサーの仕事だと思っています。また制作面では、自分たちのアイデアを引き出したりテクニカルな武器を使いながら、僕がやりたいものの枠を作るということもあるでしょうか。具体的には、企画・サービス設計・制作進行管理・予算調整・契約締結などが主なプロデュース業務といえます。

—飯島さんはさまざまなナショナルクライアントのプロデュースを手掛けてこられましたが、一番達成感のあったプロジェクトを教えてください。

いくつかあるのですが、ひとつは入社2年目で経験した某電機メーカーのプロモーションです。新製品の発売に合わせて、日本主導でグローバルコンテンツを作りましょうということになったんですね。この会社は北米圏が強くて、日本がクリエイティブをコントロールできなくなっていました。それで会社として訴求したい印象が損なわれているのでないかという課題がありました。僕はアカウントの立場でクリエイティブの先輩たちとチームを組んでプロジェクトを進めましたが、僕らが作ったコンテンツが言語を変えて世界の約70カ国で使用されました。これはやりきった感ありましたね。出張経費はバカみたいに使いましたけれど(笑)。

ふたつめは今でも継続していますが、DTC(医療用医薬品に関するプロモーション活動)サイトです。広告代理店に常駐しはじめて一年半ぐらい経ったころのプロジェクトです。人気のお笑い芸人を起用しておもしろいCMを作り、バナーも数十本作り、そのほかにプロモーション活動も経験したことで、広告の仕組みとか、どうやったら世の中に認知されるのかを勉強させてもらいました。視点を広げることができたということで自分にとっては大きな経験になりました。

もう一つ、Webとはまったく違うところで。それはクルマのディーラーがドライバーにコンサルティングをおこなう仕組み作りです。純正のカーナビで計測されるドライバーの技術や燃費のデータを僕たちが作ったシステムに反映させると、たとえばAさんの運転は荒っぽいからこうすると燃費がもっとよくなりますよ、というものです。業務アプリのようなものをコンサルティングツールとしてどう利用していくかを研究所の人とやりとりしながら進めていくのですが、これには刺激を受けました。Webとは別に、デジタルの仕事の面白さを広げることができました。

—Web制作会社のスケールにはおさまらない仕事ですね。しかし飯島さんが広告代理店に出向していたことがあるとは。

はい4年半ほど。入社して5年が経ち、新しい刺激が欲しかった時期で、ちょうどこのころ会社のほうも代理店からのWebの仕事が増えていたんです。それで僕と会社と代理店の思惑が一致して。Webを作るとかシステムを作るとかは制作会社なので、ひと通り学べたと思うんですが、サイトはある意味場所に過ぎない。その場所に来てもらうための広告領域での仕掛け、たとえばCMとかOOHなど広告やプロモーションのところを見せてもらえたのは僕にとって非常に大きかったです。そもそもコミュニケーションとはどう考えるべきなのかも学ぶことができた。これは作り手でいるだけではなかなか見えない世界だと思います。

実は営業は苦手?

—お話から血となり肉となる経験を幅広くされてきたことがわかりました。今度は飯島さんの仕事の仕方についてお聞きしたいと思います。できれば、飯島流プロデュース術まで迫ることができればと思います。営業、課題インタビュー、企画提案、制作のフェーズごとにお聞きします。まずは、営業段階の仕事について教えてください。

実は僕、営業は得意ではないんですよ(笑)。代理店などある程度関係ができている人たちに、現在の自分たちの取り組みを会えば話すようにしています。狭い範囲内でどれだけ濃いコミュニケーションができているかが大事なんです。あとは信頼感を持っていただいているお客さまからの紹介で横に広がることも多いですね。お客さまから色々なお困りごとをお聞きするのですが、僕が大事にしていることは、一緒になって考えてさしあげること、あくまでも冷静に物事を見るということ。案件獲得に欲をかいて、安易に「はい、やります」なんてことはまずしません。お話を聞いたうえで「本当にそれ必要ですか?」といわせていただく場合もあります。リスクヘッジの側面もありますが、その方が信頼関係もできやすいし、営業の評価につながっていくと思っています。

—とは言っても、上から目線のお客さまもいますよね?

それはまあ。一方的な場合だと踏みこんだ話がしづらくなりますよね。どう入りこんで、どこまでぶっちゃけた話を引きだせるか、どこまでいったら本当に困るのか、このあたりを見極めながら話をすることになりますね。

仕事に結びつかないとしても、”記憶に残る2番手”を目指す

—お客さまのお困りごとを一緒に考えるという姿勢を大事にされているということですが、お客さまから話を聞くときのポイントがあればお聞かせください。ルーティンにしていることがあればそのあたりも。

営業面で必ずクリアにするのは、基本なのですがスケジュールとお金です。制作面では要件ですね。また、誰に決定権があるのか、誰がキーマンか、物事の好き嫌いや政治はどう働くかなども推察しクリアにしていきます。そしてそのお客さまの思惑が僕たちのソリューションでうまく達成することができるか、ときには経験値のある弊社代表にも相談して判断します。これらのことはアカウントとしてプロジェクトを円滑に進めるためには不可欠なことです。

—ヒアリングをしたお客さまの課題に対して、ソリューションを企画設計されていくわけですが、この段階ではどうされていますか?

普段やっていることとしては、お客さまからいわれていることのほかになにか問題点や改善すべき点がないかを書き出すことです。競合他社や市場規模、市場の将来性などのリサーチをしつつ、お客さまのお話を客観的に見ることも心がけています。客観的な事実をわかっているうえでの提案とそうでない提案では説得力に違いがでてきますから。お客さまには、わかってくれているという信頼感も与えることもできると思います。

—では、実際の企画書ですが、これはどんな作り方をしていますか?

企画書の位置づけというのは、お客さまが納得するかどうか、担当の方が上長に説明するための資料だと思っているんです。だから誰が見てもわかることが大前提ですね。
まずはじめに、お客さまの課題と自分がリサーチした情報などを記したネタ帳にできるかぎりアイディアを書きだしていきます。これをプレゼンでどう話すとよいか起承転結を意識して修正を加え、Evernoteのネタ帳からWordレベルの企画書にします。ここで一度社内のメンバーあるいは代理店のプランナーとも共有し、課題解決になっているかどうかみんなからツッコミもらったうえで、PowerPointの提案フォーマットに落としこみます。

企画書の作り方は十人十色だと思うんですよ。僕の場合はプレゼンのときどう話すかを想定して、喋るネタを組み立てていく感じです。

—企画書作成に技などはあるんですか?

そうですね。起承転結の“転”をどう見せるかにこだわっています。最近「その心は」というフレーズをよく使っています。相手が聞いていて、ん?という一瞬考えさせる時間を“転”でつくりたいと思って。プレゼンは抑揚がないと飽きてしまうじゃないですか。コンペでもちゃんと爪痕を残すようにしないといけません。仕事に結びつかないとしても、記憶に残る2番手はのちに意味が出てくるものです。これは代理店に出向していたときに学びました。何度も書き直しをさせられて鍛えられ、自分の型ができていきましたね。

制作メンバーと話し合い、新しいトレンドも取り入れる

—制作に入るとプロデューサーとしてはどんなことを?

もう要件は決まっているので、ディレクターやデザイナーに託す場合が多いです。が、制作プロデューサーとしては、新しいトレンドや新しい技術など試したいという欲があるんですね。その欲をお客さまのニーズに合わせる形でどう実現するか、制作メンバーとよく話をします。

—具体的に欲というのは?

会社としては新しい知見の蓄積という意味がありますし、純粋に僕自身がやってみたいということもあります。流行りのデザインやこれはおさえておかなければという技術を組み合わせながら制作していきます。お客さまからお仕事をいただいて、僕も会社も成長する機会を得ているわけですね。ですから、得た知見はまた提案でお返ししなければいけないと思っています。制作の上流工程が整理されれば、プロデューサーとしては次の課題に取り組まなければなりません。

最後に

—営業段階から制作までの仕事の流れ、飯島流というのもよくわかりました。最後に、飯島さんが考えるプロデューサー像を教えてください。

プロデューサーの価値はどこにあるか。それはお客さまの課題を聞いて整理して策を授けることですが、僕が核にしているのはお困りごとを真摯に聞いて考えることです。僕はデザイナーでもなければ、技術者でもありませんから、やるべきことはひたすら一緒に考えることです。これまで共にやってきた社内外の先輩方から教えられたことで、この基本姿勢を大事にしています。仕事だろうがプライベートだろうが、飯島さんいいよねっていってもらいたいだけですね(笑)。


 

インタビューに答えてくれた人

飯島大介 / いいじま だいすけ

1983年、福島県生まれ。大学卒業後、2006年ラソナ入社。現在はWebプロデューサーとして、大手クライアントのマーケティング課題に対して、Web・SNSを活用したプロモーション戦略と企画立案に携わる。趣味は音楽鑑賞、スポーツ観戦など。とくに、生まれてはじめて歌った曲は六甲おろしというほど大の阪神ファン。

インタビュー / テキスト

和田 知巳 / わだ ともみ

ビジネスエグゼクティブ向け会員誌の編集長を経て、フリーランスに。現在はWebメディアを中心に、ビジネス、IT、ファッション・ライフスタイルなど幅広い分野で企画・執筆・編集を手がける。またライティング活動のかたわら、非常勤講師として外国人留学生に日本語を教えている。

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